卒業式における校長式辞(令和7年3月10日)
穏やかな春の日差しの中で「百花の魁」と言われる梅の花が咲き、城跡を巡る荒川の流れも心なしか優しく感じられます。先週も春の雪が降りましたが、「雪に和して香る」と讃えられる梅の花は、皆さんの「旅立ちの日」を祝うかのように咲いています。
今日の佳き日、多くの来賓の方々をお迎えし、保護者の皆様にも御臨席いただき、埼玉県立寄居城北高等学校第十五回卒業証書授与式を挙行できますことは、本校校長として大きな慶びでございます。
本日、本校を巣立つ百六十一名の卒業生の皆さん、おめでとうございます。そして、本校の教育活動に多くの御支援と御協力をお寄せくださった保護者の皆様に、御礼とともに心からのお祝いを申し上げます。
卒業生の皆さんは、この規模の学校としては珍しいほど広い範囲のさまざまな中学校から集まり、それぞれの個性の 違いを超えて友情を育んで、高校生活を立派に送ることができました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため多くの 学校行事が制限されたことを乗り越え、従来と異なる形で工夫して実施することも経験しました。また、部活動や生徒会活動でも、さまざまな素晴らしい結果を残してくれました。それは、学校にとっても皆さんにとっても、大きな財産です。そして、その充実した高校生活の締めくくりとなる希望進路の実現においても、皆さんは大きな成果を残しました。これらは、後輩たちの良き手本・目標になります。どうぞ胸を張って卒業してください。
さて、本校の校訓は「誠実・貢献・創造」です。また、私はいつも「いのちと時間ときまりを大切に」と話しています。良いものを三つ並べることはリズムもバランスも心地良いので広く好まれていますが、その中に「真善美」というものがあります。真実の「真」、善悪の「善」、美しい「美」。西洋哲学の言葉ですが、全世界に知られています。
実は、大切にされてきたこれらが今、危機的状況にあります。究極のところは、私たち大人が、それを大事にする社会を作り切れていないことが原因なのですが、具体的な原因の一つとして、「世の中に悪い見本が増えてしまったためだ」と言う人もいます。
たとえば、ある国には、都合の悪い事実をなかったことにして、インターネットの検索もできないように権力で操作する国家元首がいます。ある国には、大きな武力があれば隣の小さな国の領土を自分の物にしてもよいと考えているような国家元首がいます。また、大きな国に攻め込まれて困っている小さな国に向かって、助けてやるから貴重な天然資源をよこせと迫る、別な大国の国家元首がいます。
昔の大人は、少なくとも子どもたちの前では、「嘘いつわり」や、「潔くないこと」、「乱暴な振る舞い」や、「思いやりのない、人の弱みに付け込むようなこと」などを、良くないものだと教えていました。
しかし、今の社会には、子どもたちや若者たちに対して、金と力さえあれば自分勝手なわがままを通していいかのような「間違ったお手本」のメッセージを送っている大人が目立ちます。
これから成人として、私たちと同じ大人の立場になっていく卒業生の皆さん。これから世の中に出ていく皆さんに、お願いです。自分が多くの人との関わりの中で生きていることを忘れないでください。そして、どんな小さなことでもいい、「本当のこと、良いこと、美しいこと」などを大切にする世の中を、皆さんの下の世代に残していくために、どこかを照らす小さな光になってください。つらい気持ちで苦しむ誰かに「誠実」に接するとき、「貢献」するとき、あなたは誰かの未来を「創造」する光になれます。
では、お別れに、生徒会誌「赤土」にも書きましたが、いつもと違う言葉を贈ります。
皆さんは、私たち先生よりも、保護者の皆様よりも、賢く、心豊かで、幸せにならなければいけません。それは、私たちや保護者の皆様にとっての願い、希望であり、あなた方にとっての権利であり、皆さん自身が、皆さんの子どもたちの世代に対して背負う義務なのですから。
整いませんが、この言葉を、皆さんへの餞といたします。
結びに、本校を巣立つ皆さんの今後の御活躍と、ここに御臨席いただいたすべての皆様、そして、卒業生を支えてくださったすべての方々の御健勝と御多幸をお祈り申し上げて、式辞といたします。