第16回卒業証書授与式 校長式辞(令和8年3月11日)
式辞
昨日の朝の雨で、空気も、心も、洗われたようです。駅からの道沿いには、千利休も愛したという菜の花が咲いています。この佳き日、多くの来賓の方々をお迎えし、保護者の皆様にも御臨席いただき、埼玉県立寄居城北高等学校第十六回卒業証書授与式を挙行できますことは、校長として大きな慶びでございます。
本日、本校を巣立つ百七十九名の卒業生の皆さん、おめでとうございます。そして、本校の教育活動に多くの御支援と御理解・御協力をお寄せくださった保護者の皆様、卒業生を支えてくださった多くの皆様に、御礼とともに、心からのお祝いを申し上げます。
学校は、多様な個性を持ったひとりひとりが、同じ場所で一緒に何かに取り組むことを通じて成長するところです。
卒業生の皆さんは、総合学科独自の学びのシステムを活かして、多様な個性を伸ばし、学校行事などに一緒に取り組んで、それぞれの役割を果たし、人間関係を深め、大きく成長しました。希望進路の実現においても、新しい取り組みに挑戦して大きな成果を収め、後輩の手本となりました。誠実、貢献、創造という本校の校訓どおりに、誠実に学校生活に取り組み、助け合いながら周囲に貢献し、あなた方だけの思い出を創り上げました。胸を張ってください。
さて、私はいつも生徒の皆さんに、「いのちと、時間と、きまりの三つを大切にしましょう」と言い続けてきました。
また、皆さんは、教室に学年目標を掲げて、毎日それを見ながら三年間を過ごしてきました。「先手必勝の挨拶」、「行事の勝利」、「物事の判断能力を身につけ己に克つ」、そして、三つの目標のあとに添えてある、「三年間自分自身と勝負をし、成長という名の勝利を!」という言葉。剣道の達人を主任とする学年が掲げた目標らしい、勢いのあるこの言葉を見るたび、私は嬉しい気持ちになっていました。
目標のあとに添えてある「三年間自分自身と勝負をし、成長という名の勝利を!」という言葉は、私がよく言っている「成長とは、命を大切にして、自分をより良く伸ばすことだ」という話にも通じます。そして、三年間自分自身と勝負するということは、限られた高校生活という貴重な時間を大切にすることにもつながります。
目標の三つ目にある「判断能力を身につけ己に克つ」というのは、これも私がよく言う「ルールやマナーやエチケットなどの向こう側にある、それがきまりごとになった理由について、よく考えてから行動しましょう」という呼びかけにも重なります。私が大切にしたいことが学年の目標と通じ合っていて、それを、私がこの学校に着任する前から皆さんが大切にしてくれていた。それが嬉しかったのです。
目標の二つ目の「行事の勝利」という言葉どおり、学校行事のたびに皆さんは、自分のクラスだけ、自分の学年だけ、ではなく、学校全体を盛り上げる方向で、楽しみながら取り組んでいました。体育祭では、準備体操の掛け声から、さまざまな競技の応援に至るまで、どの学年よりも大きな声でした。ヤジで相手をけなすようなこともせず、頑張る選手に明るい励ましの言葉をかけていました。城北祭のときの体育館の発表では、他の学年や部活動、有志などの出し物や動画にも、大きな拍手と声援をしっかり送っていました。その素晴らしい態度に、私は感動しました。
そして、最初に掲げられている「先手必勝の挨拶」です。
私は教員になってからずっと、生徒の皆さんが将来まわりの人と良い人間関係をつくる練習になればいいと思って、意識して自分から挨拶の言葉を声に出してきました。
三十年ほど前のことです。私は表千家のお茶を習っているのですが、三百年も家元を支え続けている堀内家の、十三代堀内宗完宗匠とお話しする機会がありました。そのときに、「新井さん、生徒より先に挨拶したら一勝、生徒から先に挨拶されたら一敗、と数えるようにしたら良いですよ」と教えていただきました。とても嬉しかったです。皆さんの学年目標を見たとき、その思い出がよみがえり、さらに嬉しくなりました。
そして、皆さんに先に挨拶されるたび、「あ、また負けてしまったか」と思い、負けるたびに嬉しくなり、心が温かくなり、幸せな気持ちになりました。皆さんは、何という素敵な敗北を私に味わわせてくれたことでしょうか。
皆さんにこの話をするのは、誰かの力で自分を幸せにしてもらって味わう喜びよりも、自分の力で誰かを幸せにすることができたときに味わう喜びの方が深い、と私が思っているからです。小さなこと、と思う人もいるかもしれませんが、皆さんは、私を幸せにしてくれました。皆さんは、周りの人を幸せにする力も、自分自身を幸せにする力も、お互いを幸せにする力も、みんな持っているのです。
今、国際社会で大きな声を出している、自分たちファーストや、自分だけファーストという考え方に染まるよりも、お互いに幸せになれる方法を探して、その力を身につける方が、喜びが深いと私は信じています。どうか皆さんも、誰かと一緒に幸せになってください。皆さんは、学年の先生方と協力して、学年目標を現実のものにしたのです。だから、次は、自分の人生の目標を現実のものにしてください。
それでは、巣立ちの日にあたり、いつも私が卒業生に贈る言葉を申し上げます。
皆さんは、私たち先生よりも、保護者の皆様よりも、賢く、心豊かで、幸せにならなければいけません。それは、私たちや保護者の皆様にとっての願い、希望であり、あなた方にとっての権利であり、皆さん自身が、皆さんの子どもたちの世代に対して背負う義務なのですから。
整いませんが、この言葉を、皆さんへの餞といたします。
結びに、卒業する皆さんの今後の御活躍と、ここに御臨席のすべての皆様、卒業生を支えてくださったすべての方々の御健勝と御多幸をお祈り申し上げて、式辞といたします。
令和八年三月十一日
埼玉県立寄居城北高等学校長 新井 康之