2026年3月の記事一覧
令和7年度終業式における校長講話(令和8年3月24日)
改めまして、おはようございます。
私はこの1年間ずっと、外部の方に「寄居城北高校はどんな学校ですか?」と尋ねられると、こんなふうに答えてきました。「校長の私が全校生徒の前で話をするとき、挨拶の礼をして顔を上げると、体育館の生徒が皆、ちゃんと私を見ています。顔を見て話を聞いてくれます。そんな学校です」と。他にも色々な話をしますが、そのことは、中学校の先生方などには、とても印象に残ったようです。今日も、礼をして顔を上げると、皆さんの目がこちらを向いていました。素晴らしいことだと思っています。
3年生が卒業してしまうと、体育館が広く感じますね。この間の三年生を送る会で、皆さんや先生方が作った動画を見ていたのが、夢のようです。AIという鬼と闘う「鬼滅の刃」の話もありました。これから、生成AIは暮らしに欠かせないものになることでしょう。しかし、いくら便利でも、それは、あくまで道具です。使う人間が主体でなければいけないというのは、物語でなく、本当のことです。
さて、私が皆さんの前でいつも話をする、「いのちと時間ときまりを大切に」ということ。これは、40年近く前、私が教員になって初めて担任をしたときに、最初の学級通信の中で書いて呼びかけたことと同じ内容です。
たいへん申し訳ないことなのですが、私は、自分が高校生のときの校長先生の話の内容を、ほとんど覚えていません。そこで、数年前に自分が校長となって、初めて生徒の皆さんの前で貴重な時間をもらって話をするにあたり、改めて考えました。高校生の頃の自分自身のように、なかなか話を覚えてもらえないなら、毎回同じことを話そう。「またこの話だよ」、「また同じこと言ってるよ」、そう思ってくれたら、少しは心に残るかもしれないと思いました。今日の話も、結局は、いのちと時間ときまりの話につながりますが、聞いてください。
ところで、数年前の新型コロナウイルスの騒ぎでリモート授業などが話題になり始めた頃のことです。何人かのえらい人が、「高校の授業なんて、カリスマ予備校教師の動画でも見せておけばいいんじゃない?」と言っていました。今でも、「これからの時代は、生成AIや動画配信が学校の先生に置き換わる」という話を耳にすることがあります。
本当に、そうなのでしょうか?
PTA広報誌の「城北」にも書きましたが、生徒の皆さんに対して行ったアンケート調査の結果を見て、とても嬉しかったことがあります。それは、「悩みを先生に相談しているか」という質問に「はい」と答えた人の割合が、1年生が5割以上、2年生が6割以上、3年生が7割以上と、はっきり上昇していたことです。寄居城北高校の先生方は、生徒のことを大切に考えている、受け止めてくれると、生徒の皆さんから認められているような気がして、嬉しかったのです。
皆さん。「それぞれ違った個性を持つひとりひとりが、同じところで一緒に何かに取り組んで、成長する」、それが学校という場所です。
本校の先生方の多くは、この1年あるいは2年の間、ここにいる違った個性、違った魂を持つ皆さんひとりひとりのいのちを尊重して向き合い、学校という同じ場所で生き、共に成長する者として関係を築いてきたと、私は信じています。違った個性を持つ者同士が、互いに傷つけ合わないようにするための、きまりというものもありますが、皆さんの長所も短所も受け止め、その努力に寄り添いながら、貴重な時間を重ねてきたと、私は信じています。そして、そこには個人と個人の信頼や絆があると、私は信じています。それは、世間の最大公約数としての生成AIの答えや、カメラの向こうで喋(しゃべ)るえらい先生の録画などと、簡単に取り替えられるものではない。そう、私は信じています。
だから私は言いたい。あえて汚い言葉で言えば、「舐めるな」と。「私たちが生徒の皆さんひとりひとりと過ごしてきた時間の積み重ねを、馬鹿にするな」、「取り替えのきかない関係を築いてきた時間の尊さを、貶(おとし)めるな」と。
さあ、あと2週間で皆さんの後輩たちが入学してきます。今年度は埼玉県で公立高校を希望する中学3年生の割合が、史上最低、6割以下でした。今回の入試で、多くの高校の倍率がひどい下がり方をする中、本校の倍率は、昨年に比べ16ポイントも上昇しました。これは、生徒の皆さんが先生方と一緒に頑張ったり、楽しそうに過ごしたりしている様子を見たり聞いたりした中学生が、あんな先輩のようになりたいと思ってくれた結果だと思います。
皆さん、憧れの先輩になる準備は、できていますか。新入生に、ここに入学して良かった、皆さんのような人たちに会えてよかった、と思ってもらえるような先輩になってください。
明日から、長い春休みが始まります。本を読みましょう。何か良いことで誰かのお手伝いをしましょう。挨拶をしましょう。
どうか、4月8日の始業式に元気な顔で参加してください。終わります。
第16回卒業証書授与式 校長式辞(令和8年3月11日)
式辞
昨日の朝の雨で、空気も、心も、洗われたようです。駅からの道沿いには、千利休も愛したという菜の花が咲いています。この佳き日、多くの来賓の方々をお迎えし、保護者の皆様にも御臨席いただき、埼玉県立寄居城北高等学校第十六回卒業証書授与式を挙行できますことは、校長として大きな慶びでございます。
本日、本校を巣立つ百七十九名の卒業生の皆さん、おめでとうございます。そして、本校の教育活動に多くの御支援と御理解・御協力をお寄せくださった保護者の皆様、卒業生を支えてくださった多くの皆様に、御礼とともに、心からのお祝いを申し上げます。
学校は、多様な個性を持ったひとりひとりが、同じ場所で一緒に何かに取り組むことを通じて成長するところです。
卒業生の皆さんは、総合学科独自の学びのシステムを活かして、多様な個性を伸ばし、学校行事などに一緒に取り組んで、それぞれの役割を果たし、人間関係を深め、大きく成長しました。希望進路の実現においても、新しい取り組みに挑戦して大きな成果を収め、後輩の手本となりました。誠実、貢献、創造という本校の校訓どおりに、誠実に学校生活に取り組み、助け合いながら周囲に貢献し、あなた方だけの思い出を創り上げました。胸を張ってください。
さて、私はいつも生徒の皆さんに、「いのちと、時間と、きまりの三つを大切にしましょう」と言い続けてきました。
また、皆さんは、教室に学年目標を掲げて、毎日それを見ながら三年間を過ごしてきました。「先手必勝の挨拶」、「行事の勝利」、「物事の判断能力を身につけ己に克つ」、そして、三つの目標のあとに添えてある、「三年間自分自身と勝負をし、成長という名の勝利を!」という言葉。剣道の達人を主任とする学年が掲げた目標らしい、勢いのあるこの言葉を見るたび、私は嬉しい気持ちになっていました。
目標のあとに添えてある「三年間自分自身と勝負をし、成長という名の勝利を!」という言葉は、私がよく言っている「成長とは、命を大切にして、自分をより良く伸ばすことだ」という話にも通じます。そして、三年間自分自身と勝負するということは、限られた高校生活という貴重な時間を大切にすることにもつながります。
目標の三つ目にある「判断能力を身につけ己に克つ」というのは、これも私がよく言う「ルールやマナーやエチケットなどの向こう側にある、それがきまりごとになった理由について、よく考えてから行動しましょう」という呼びかけにも重なります。私が大切にしたいことが学年の目標と通じ合っていて、それを、私がこの学校に着任する前から皆さんが大切にしてくれていた。それが嬉しかったのです。
目標の二つ目の「行事の勝利」という言葉どおり、学校行事のたびに皆さんは、自分のクラスだけ、自分の学年だけ、ではなく、学校全体を盛り上げる方向で、楽しみながら取り組んでいました。体育祭では、準備体操の掛け声から、さまざまな競技の応援に至るまで、どの学年よりも大きな声でした。ヤジで相手をけなすようなこともせず、頑張る選手に明るい励ましの言葉をかけていました。城北祭のときの体育館の発表では、他の学年や部活動、有志などの出し物や動画にも、大きな拍手と声援をしっかり送っていました。その素晴らしい態度に、私は感動しました。
そして、最初に掲げられている「先手必勝の挨拶」です。
私は教員になってからずっと、生徒の皆さんが将来まわりの人と良い人間関係をつくる練習になればいいと思って、意識して自分から挨拶の言葉を声に出してきました。
三十年ほど前のことです。私は表千家のお茶を習っているのですが、三百年も家元を支え続けている堀内家の、十三代堀内宗完宗匠とお話しする機会がありました。そのときに、「新井さん、生徒より先に挨拶したら一勝、生徒から先に挨拶されたら一敗、と数えるようにしたら良いですよ」と教えていただきました。とても嬉しかったです。皆さんの学年目標を見たとき、その思い出がよみがえり、さらに嬉しくなりました。
そして、皆さんに先に挨拶されるたび、「あ、また負けてしまったか」と思い、負けるたびに嬉しくなり、心が温かくなり、幸せな気持ちになりました。皆さんは、何という素敵な敗北を私に味わわせてくれたことでしょうか。
皆さんにこの話をするのは、誰かの力で自分を幸せにしてもらって味わう喜びよりも、自分の力で誰かを幸せにすることができたときに味わう喜びの方が深い、と私が思っているからです。小さなこと、と思う人もいるかもしれませんが、皆さんは、私を幸せにしてくれました。皆さんは、周りの人を幸せにする力も、自分自身を幸せにする力も、お互いを幸せにする力も、みんな持っているのです。
今、国際社会で大きな声を出している、自分たちファーストや、自分だけファーストという考え方に染まるよりも、お互いに幸せになれる方法を探して、その力を身につける方が、喜びが深いと私は信じています。どうか皆さんも、誰かと一緒に幸せになってください。皆さんは、学年の先生方と協力して、学年目標を現実のものにしたのです。だから、次は、自分の人生の目標を現実のものにしてください。
それでは、巣立ちの日にあたり、いつも私が卒業生に贈る言葉を申し上げます。
皆さんは、私たち先生よりも、保護者の皆様よりも、賢く、心豊かで、幸せにならなければいけません。それは、私たちや保護者の皆様にとっての願い、希望であり、あなた方にとっての権利であり、皆さん自身が、皆さんの子どもたちの世代に対して背負う義務なのですから。
整いませんが、この言葉を、皆さんへの餞といたします。
結びに、卒業する皆さんの今後の御活躍と、ここに御臨席のすべての皆様、卒業生を支えてくださったすべての方々の御健勝と御多幸をお祈り申し上げて、式辞といたします。
令和八年三月十一日
埼玉県立寄居城北高等学校長 新井 康之